カテゴリ:小説-黄金のドア(1)( 5 )

黄金のドア

    『人を呪わば……』


   0.  夜明け前

 暗かった。
 だからよく見えない。目を凝らしても、わずかな銀の輪郭のみがおぼろげに動いているだけで、それが何なのかまで判らない。
 ここはどこだろう。トンネルの中、それとも洞窟かしら。遠くに見える銀の光は外への出口で。
 でも動いてる。ぼやけた曲線。人間?
 誰かいるの?
 思い切って出してみた声は、すぐ闇に飲み込まれて、空気を揺るがすことさえしなかった。自分の体さえ見えない闇の中、ここは広いのか狭いのか、今自分が立っているのかどうかすら判らない。
 あの銀の光だけが、確かにここにあるもの。
《我思う 故に我あり》?
 あたしもここにいる。
 ──ここに、いる。
 怖くはない。寒くもない。何も聞こえないし、何もないから。
 あの銀の光はあたしに何もしないから。近づいても来ないし、ただじっと、ずっとあの場所であたしを待ってるだけだから。
 呼ばれている。
 あたしを、待っている。誰に?
 あの銀の光の人に? どうして?
 疑問は届かない。あたしの回りで溶けて、闇になって、また一段とその濃さを増してゆく。
    wake up
 銀の人に手を伸ばしてみようとしたけれど、できなかった。手がどこにあるのか、よく判らなかった。手も、頭も、心も……ここにいるけどあたし、どこにいるんだろう。
    wake up もう起きなさい
 判らないから、もう見るのはやめる。あれが何かなんて、考えるのはやめる。
 あたしを待ってる何かなんて、暗くて判らない。


 夜明け前、舞(まい)はふと目を覚ました。夢を見ていたような気がするが、思い出せない。
 やけに静かだった。舞の寝ている二段ベッドの上段には姉が、隣の部屋には母が、階下の和室には父がいる筈なのに、物音一つしない。もちろん、三人はまだ眠っているだろうから、静かで当たり前なのだが、何だか不気味なぐらいの静寂だ。
 思い出したように唸る冷蔵庫の音や、表を走るバイクの音が、いつもなら無意識に聞こえているのに。ボーソーゾクの人にもお休みの日ってのがあるのかしら。
 ……そうじゃなかった。
 舞は目を閉じたまま、ペタンと手で顔を覆った。
 それは先週までだった。今は、違うんだわ。
 あたしはもう二段ベッドでお姉ちゃんと寝てないし、パパもこの家にはいないんだった。ここはあたしん家じゃなくて、おじいちゃんの家だもん。
 あ……あたしん家、だけど。
 あーあ。
 舞は目覚まし時計で時間を見ようと手を伸ばしかけて、途中でやめて、目を開いた。雨戸を半分開けてあるので、窓からはカーテン越しに青白い光が入ってきている。沈みかけの月の光か、昇りかけの太陽の光か。部屋ではなく、深い海の底にいるみたいな、落ちついた、冷めきった青い闇。
 なんか、悪い夢だったような気がする。良くないことが起こる、予兆の夢。
 良くないこと? ……バカだな。
 舞は木目調の天井を見上げたまま、声を立てずに笑った。泣くかと思ったが、涙は出なかった。今更泣くことでもないし、泣くのにはもう飽きた。
 昔、まだ本当に子供だった頃、おじいちゃん家に泊まりにきてこの部屋で寝るの、嫌いだったな。木目が人の横顔に見えて、怖くて、お姉ちゃんに先に寝ないでよってわがまま言ったこともある。
 嫌いだった部屋で、今こうやって一人で寝てる、あたし。
 良くないことなんて、もうとっくに起きたじゃないの。何年も前からこうなることは判ってたし、起こっちゃったことはあたしにはどうしようもない。
 舞は思い切って布団から体を起こした。闇に慣れた目に見える、目覚ましの針は短い方が三で長い方が六。三時半だ。
 机の上に、写真立てが伏せて置いてある。そっと起こして、スタンドの明かりを点けた。
 入っているのは、先週までの家族の写真だ。二年前、舞が中学に上がった時に撮った。三本白ラインのセーラー服を着た舞と、同じ春に高校一年になった姉の成美、よそいきのスーツによそいきの顔をした母に、一人だけ普段着で恥ずかしそうな父。四人が緊張した笑顔でレンズを見ている。
 この頃はまだ、家族が二つに分かれることになるなんて、まるで思ってもみなかった。
 なあんて、ね。嘘だね。
 もっと前から知ってたもん。パパとママが喧嘩ばっかりしてること。
 それでもいつかきっと上手く行って、また仲良く楽しく暮らせるなんて夢みたいなこと、考えたりしなかった。世の中そんな都合良く行く訳ないことぐらい、もう十四だもん、あたしだって判ってる。
 だからって、何も中三の──お姉ちゃんにとっては大学受験の年の、この大事な九月に、離婚するほど思慮深い親だとは、さすがに思わなかったけど。
 はあ、と舞はまた溜め息をついた。
 母の実家である祖父の家は古く、ちょっとしたことでギシィと軋む音を立てる。小学生の頃は夏休みや冬休みに泊まりに来たりしていたが、この軋む音や、広すぎて目の届かない感じが怖かった。
 祖父も無口で、いつも怖い顔をしているから、苦手だ。子供の頃も、この家に来てからもあまり喋ったことないし、母とはあれから口をきいていない。
 苦手、と言えば。
 よいしょ、と年の割には年寄り臭く、舞は写真立てを手に布団の上に座り込む。紺のブレザーの制服を着た姉は、一緒に暮らせなくなってからも同じ高校に通っているから、今の舞のような悩みはないだろう。
『都会の子とはよう話せんわ』
 舞の新しい中学では、男子は全員丸坊主、髪の長い女子は耳の下で二つに分けて結ぶことになっていた。元の学校にはヘアスタイルに関する校則がなかったので、そもそも「校則」という言葉すら思いつかなかった彼女は、いつものように、肩より少し長い髪をポニーテールにして、学校に、行ったら。
 お姉ちゃん、あたし学校行きたくないな。
 今まで見てたテレビも全然違ってて、話題ないし。それにみんな、喋ってくれないの。最初の数学の小テストで、あたし満点取っちゃってさ。だって前の学校で一学期に習ったとこだったんだもん、仕方ないじゃない。
 仕方ないことだし、別に悪いことでもない筈だ。クラスメートにいちいち言い訳するのも変だし……まあ、聞いてもらえないだろうが。
 でも小テスト事件以来、ますます風当たりが強くなったのも事実だ。そして舞には相談できる相手がいないことも。
 ポニーテールもしてっちゃいけないんだって。校則通りの髪形、あたしに全然似合ってなくて、あたし、前の自分じゃないみたい。
 ポニーテールの自分を見ていたら、急に腹が立ってきた。舞は写真立てを壁に投げつけようとして──できなかった。静かすぎる夜だ、音が響きわたってしまう。
 どんなに怒っていても、どんなに傷ついていても、舞はそれを表に出すのが下手だった。
 きっと、死んだんだ。
 舞は静かに机の上に写真を戻して、明かりを消した。タオルケットにもぐり込む。
 きっとあの時、死んだんだ、岩谷舞は。一瞬で、あっけなく。
 舞は強く目を閉じる。もう泣くのには飽きた。もう泣くこともできない。それでも流れない涙が目の奥で溢れて、叫びだしそうなくらい痛いから。
ごめんねママ、ママが本当はあたしよりお姉ちゃんを欲しかったこと、あたし知ってるの。あたしが一緒に来ちゃって、ごめん。
 要らないあたしがここにいて、ごめん。
 舞はギュッと目を閉じる。眉間に皺を寄せて、強く強く、思う。
 だからみんな。あたしもみんなも。
《死んじゃえばいいんだ、みんな》
 それは。
 呪い。
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by new-chao | 2005-04-11 15:59 | 小説-黄金のドア(1)

黄金のドア

  1.  さ……サバンナ?


『ここから戻るためのヒント。
 一度しか言わないのでよく聞いて下さい。もしも忘れてしまった場合、責任はあなた自身にあります。
 鏡から現れた黒い鳥が涙の雨に打たれた時、その雫は小人の呪いを解くでしょう。そして雫に偽物の金がきらめけば、光の道が現れ、光が示す先に扉があるでしょう。扉を開ければきっと、あなたの知っている、しかし新しい世界へ行ける、かもしれません。
 判りましたね?』


 ……判りましたね、って言われても。
 舞は何となく肌寒さを感じて、半袖の腕をさすった。一瞬、何だか妙な気がしたが、半分寝ている彼女には何が妙なのか判らなかった。
 それに暦の上では九月は秋だが、現実にはまだ夏のようなもの、明け方とは言えそう寒い筈はないのだが。
 瞼の裏が黄色に光っているのは、夜が明けたからだろうか。眩しくて目が開かない。
 なんか、頭も痛いような気がするし、涼しいのは気のせいじゃないし、ひょっとして、ナントカが引く夏風邪ってやつかなあ。もうちょっと寝よ、そのうち治まるかもしんないし。明け方に寝直したからか、訳の判んない夢見ちゃったし。
 舞は体からずり落ちてしまったらしいタオルケットを被ろうと、足の方に手を伸ばし、手を伸ばし、手を、伸ばし……て……。
 ない。
 何も、ない。タオルケットも。敷布団も。
 はあっ!?
 舞はこれ以上見開けないほど目を開いて、飛び起きた。咄嗟についた手のひらの下で、ジャリッ、と砂利が音を立てた。
 何もない。木目の天井も、黄ばんだ白い壁紙も、机もタンスも、自分の部屋じゃない。部屋の中、どころか。
 この現代の日本で、部屋の床に絨毯の代わりに砂を敷きつめてある家がどこにあるか。これは中じゃなくて、外にいるのだ。それに。
 先刻腕をさすった時何を妙だと思ったのか、やっと判った。服が違う。
 半袖のパジャマで寝てたのに、長袖のシャツになっている。舞が気に入ってよく着る、飾りのネクタイの付いたチェックの綿シャツ。履いているのもパジャマのズボンじゃなくて、触り心地のいいジャージっぽい布地の、黒いミニフレアースカートだ。どっちも舞の服ではあるが。
 なんで? いつ着替えたんだろう? 今の今まで寝てたのに、どうして。それとも今、起きていると思っていることこそが、夢なの?
「やだ……ママぁ!?」
 つい、無意識に叫ぶ。
 と。
「あ、起きてる」
 男か女かよく判らない、柔らかい若者の声が背後から聞こえて。
「大丈夫?」
 舞が振り返るより早く、声の主が彼女の前に回り込んだ。細いブラックジーンズの膝を砂の上に着いて、舞の顔を覗き込む。
「……」
 舞は何か言おうと思ったのだが、何を言えばいいのか判らない。大丈夫と言えば大丈夫だが、全然大丈夫じゃないような。
 それに声が出なかった理由はもう一つある。正面にしゃがんだ彼が、あまりにも綺麗だったからだ。
 太陽の光を跳ね返す、サラサラの短い黒髪。切れ長の二重の目は知的で、でも優しげで、太すぎず細すぎず整った眉、白い頬、薄すぎず厚すぎない唇も柔和で、でも凛として、どこか色っぽい。宝塚の男役スターのようだ。全体的に線が細いけれど、華奢な感じではなく、中性的でクールだ。
 グレーのタートルネックにふわりと白いハーフコートを羽織って、……か、かかか恰好良すぎる。
「こっ、これって夢よね」
 そうじゃなきゃ、こんな美人、現実にいる訳ないもん。
「だといいんだが」
 美少年は耳聰く舞の独り言を聞き取ると、苦笑まじりに呟き、舞の腕を掴んで立ち上がらせた。並んで立ってみると、彼は意外と小柄だ。百六十五センチぐらいだろうか。
 変化は舞の足元にもあった。足首までの短い靴下に、やっぱりお気に入りの、MCシスターのスニーカーを履いている。
「あ、あの」
 舞がいるのは砂と石の転がる、一見ただの農道のような道だ。彼女の新しい家である祖父の家の側には、こんな舗装されていない道路もあるが、ここは、どうやら家の近所ではないらしい。
 何故なら、見渡すかぎり、一面の草原。遙か遠くに森があるのが見えるけれど、それ以外、何もない。家も、車も、電線の一本も。
「ここ、どこですか」
「さあ」
 美少年は肩をすくめて見せると、舞の頭越しに声を掛ける。
「知ってるか?」
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by new-chao | 2005-04-11 15:58 | 小説-黄金のドア(1)

黄金のドア

 舞の後ろにまだ誰かいたのだ。舞は振り返って、二人の男がいるのを見た。
 一人は高校生ぐらい、いかにもな皮ジャンにいかにもなピアス、いかにもな長髪。ロックミュージシャンの卵か暴走族か、染めた金髪の下からジロリと舞を見る目が、だが意外と可愛らしい。大きな銀のドクロの指輪をはめた手で、少年は長い前髪を掻き上げてそっぽを向く。
 もう一人は大人だ。二十代前半、ごく普通のジーパンとダンガリーシャツに、丈夫そうなゴツい靴を履いていて、体が大きい。きちんと襟足を刈り上げて、スポーツマンっぽい爽やか系だが。
「いや」
 美少年と同じ切れ長の目だが、印象が全然違う。舞を見下ろす目つき、すっとした鼻、薄い唇、何となく顔つきそのものが鋭く尖って、ちょっと怖い。
「俺も気がついたらここにいたから」
 気がついたらって言うのは何なの、だいたいあんたたちはどういう知り合いで、そもそも誰なの?
 そうは思ったが、舞はやはり知らないうちにポニーテールになっていた髪を払って辺りを見回して、何気なく、思いついたことを口にした。
「なんか、サバンナみたいですね」
 どう見ても三人とも、十四歳の自分より年上だ。自然と丁寧語になる。
「行ったことはないですけど。動物がいないのが不思議な感」
 最後まで言わず、舞は言葉を飲み込んだ。草原の彼方、ギリギリ捕らえられるぐらいのところに、砂ぼこりが上がっているのが見え
たからだ。
 遠くに何かある。何か、いる。
「……何か、来る」
 舞が気がつくのと同時に、ジーンズの大男が言った。他の二人もそっちを見た。
「何かって」
 舞の視力では土埃以外は判別できない。だが音が聞こえる。ドドドドド、と低く、地鳴りのような……。
「足音だ」
「げっ、こっちに来る!」
「逃げよう!!」
 三人の男は身軽に駆け出したが、舞は動けなかった。
 動物の大群がこっちに向かって来る、それは判っている。でも動けない。だって、なんでいきなりそんなことになるのだ。一分前まで何もいなかったのに、突然大挙して襲ってくるなんて。
 これは夢よ。絶対そう。あたし先刻からずっと、変な夢を見てるの。
 そんなに、ものすごく怯えている訳ではないが、大群に目を奪われて動けない。だんだん近づいてきて、だから見えるようになって、判ったのだ。何かが違うのだ。舞のよく知っている動物と、違う。
 鼻が長くて耳が大きくて、象みたいに見えるのに角があったり、首が長いからキリンかと思いきや、顔がライオンだったり。
 あれ何なの、だってたてがみあるわよ、あっちのライオンみたいなトラの顔したのなんて、ライガーかなってこともありだけど、でっでも尻尾が二本ある……!?
「そのポニーテール、ぼーっとすんな!」
 誰かが怒鳴ってハッとした舞の頭上を、鷹か鷲かコンドルか、やたら大きな鳥が飛び去った。旋回して、狙いを付けて、今度こそ舞の頭に──。
「危ない!!」
 大男が舞の手首をぐいっと掴んだ。間一髪、鳥の嘴か爪かが引っ掛かってポニーテールにしていたヘアゴムが切れたが、怪我はせずに済んだ。よろけた彼女を引っ担いで、どんなバカ力をしてるのか、大男はそのまま走り出す。
 二羽目の猛禽の爪が金髪少年の肩辺りをかすめ、少年が皮ジャンを脱いで振り回して鳥を追い払うのが視界の端に見えたが、担がれている舞は声も出せない。
「森へ!!」
 少し先を走る美少年が冷静に示す声がして、大男の足が速まった。舞は振り落とされないように、必死で男のシャツにしがみつく。
 森っつっても、だいぶ遠かったような気がするけど……。
 しがみついたまま顔を上げると、怪鳥と金髪はまだ戦っている。
「ねえ、下ろして、あの人が危ないわ!」
 大男が振り返る。足が遅くなった隙に、舞は下りたというより落っこちて自由になった。
「あ、待てっ」
 掴もうとする手をすり抜けて、舞は手頃な石を拾い上げた。鳥に向かって投げつける。当たらない。もう一回。
「おまえっ」
 もう三メートル近づいて、渾身の力を込めて、投げる。
 ──当たった!!
「ソフトボール部!」
 Vサインして見せる舞にしょうがなさそうに笑って、大男はまた舞の手を掴んだ。
「行くぞ、おまえも早く!!」
 鳥が怯んだ隙に、金髪も走りだす。
 遠かった筈の森は何故か目前にあり、先に行っていた美少年以外の三人は、もつれ合うように森に飛び込んだ。木々の間は狭く、あの大きな鳥は通れないだろう。
 だがホッと息をつく間もなく、背後からハッハッハッハッと荒い息づかいが聞こえてくる。動物の群が入って来たのか。
「っ!」
 振り返ろうとする舞に、勢い余ったその動物がぶつかった。舞は悲鳴を上げてすっ転んだ。
 もう駄目だ、食べられちゃう……!!
 倒れたまま固まっている舞に、しかし恐ろしい牙は襲いかからなかった。代わりに触れたのは、ふわりと柔らかい何か。
「何だこいつ、こんなの先刻いたか?」
 大男が言うのが聞こえ、舞はそっと目を開ける。
 彼女の前には、裂けた口から長い舌をはみ出させた……犬がいた。舞と目が合って、ちょっと首を傾げた。何ビビッてんの、と言いたそうに。
 この犬も大群から逃げてきたのだろうか。
「おい、大丈夫かポニー?」
 転んだままの舞を、大男が引き起こしてくれた。舞は立って、土の着いたスカートを払う。
「変なあだ名付けないで下さい、あたしの名前は舞です。岩谷、じゃなくて、関野舞」
 ついでに、先刻コンドルに切られて髪に引っ掛かっていたゴムを外すと、ポニーテールを解く。どうも痛いと思ったら、膝を擦りむいている。犬に転ばされた時にできた傷だろう。
「あなたの名前は?」
 もう少し奥へ入ろうと美少年が示すので、訊かれた大男は後に続きながら答える。
「高橋祥一郎(しょういちろう)」
 命の恩人の名前だ。
 それはちょっと大げさかな?
「祥一郎さん、助けてくれてありがとうございました。それから、あなたも」
「芳真(よしま)」
 金髪は自分のことだと判ったのだろう、舞の方を見ようともせずに素っ気なく言った。皮ジャンに付いた傷が気になるらしい。
「芳真さんも」
「そんなに年違わないんじゃないか、芳真サンて柄じゃないだろ。それにお互い様だろ」
 祥一郎の声に、芳真はチラと大男を見て、舞を見た。
「十五、高校一年。おまえ中坊だろ」
「……三年です」
 あからさまに、ガキ、と言われた気がして、舞はちょっとムッとした。
 犬の方は勝手に四人を仲間と思ったのか、少し離れてついてきていた。大きさは柴犬ぐらい、舞でも片手で抱えられそうな程度で、耳はピンと立ち、尻尾はふさふさでくるっと巻いている。煙突の掃除でもしたみたいに、鼻と口の回りだけが真っ黒な、全身茶色の犬だ。
「おまえもついてくるの?」
 舞が声を掛けると、また首を傾げた。
「別に、悪くないけど」
 悪い? と言われたような気がして、舞は言った。美少年が笑って振り返る。
「犬のことは予想外だけど、君のことは判っていたよ。私たち三人とも、君と同じで、どうやってここへ来たのか、ここがどこかは知らないけれど、四人になることは知ってた」
 男の人にしては高いけれど、落ちついたきれいな声だ。ハンサムな人は声もいいとは。
「四人?」
「そう。気がついたらここにいたんだけど、四人必要だって、どうしてか判ってた。君がその四人目なんだ。君を待ってたんだよ」
 君を。
 待っていた。
 ドキン、として舞は立ち止まった。
「どうかした?」
「い、……いいえ」
 聞き間違いじゃないよね? 今、この人あたしを待ってたって。
 あたしを。
 待っていてくれた人。そんな人が、いるなんて。ママにさえ、本当はお姉ちゃんの方が良かったと思われてるあたしを。
 たとえこれが夢でも。
 意味なんかなくて、ただ何となく言っただけでも。それでもいい。
「あの、あなたの名前も、良かったら」
「ああ、私は池崎水都(いけさき みと)と言います。もうすぐ十七になる、高校二年生」
「私?」
 つい訊き返してしまった舞に、彼は、ああまたか、と苦笑した。
「やっぱり誤解されてた」
 まさか、と舞と祥一郎は顔を見合わせた。
 まさか。
「まさかと思うだろうけど、私は舞ちゃんと同じ、女だよ」
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by new-chao | 2005-04-11 15:56 | 小説-黄金のドア(1)

黄金のドア

   2.  白馬の騎士は超美形


「秀一郎と祥一郎は本当にそっくり、どっちも可愛くてどっちもお利口。二人のどっちがお父さまの会社を継ぐか、お母さまはとっても楽しみだわ」
 赤ん坊の頃は、ハイハイのスピードを。
 幼稚園ではどちらが先に読み書きを覚えるか、学校へ入ってからはテストの成績、百メートル走のタイム、級長に選ばれた回数、書道や図画コンクールで何度入賞したか──ありとあらゆることを。
 祥一郎は比較されてきた。一卵性双生児の兄、秀一郎と。
 彼と兄は全く同じ遺伝子を持っている。
 だから顔はもちろん、体格も、声も、同じ家で暮らしているためか癖までもがそっくりだ。
 同じ小学校へ通い、同じ中学校へ通い、同じ高校へ通い、同じ大学の経営学科に通っている。生まれてからの二十二年間、家族以外の誰にも、二人の見分けが付けられたことはない。
 そっくりね。
 そう言われてしまうのは仕方がない。自分がどう足掻こうと、この体中に組み込まれたDNAは今更取り除けない。
 だが。
 いつか、高校生の頃恋人に言われた一言を思い出して、祥一郎は目を伏せる。少しだけ口許が笑ったかもしれない。
 一緒にいるなんて、仲がいいね。
 仲がいい? 俺たちが?
 側にいたのは好きだったからじゃない。離れるのは権利を放棄することになるからだ。戦わずして、あいつに負けたことになってしまうからだ。
 その恋人とは、自然とうやむやになって別れた。彼女の何を好きだったのか、今となってはもう覚えていない。最初から本当は、好きではなかったのかもしれない。心の奥底で気にかけて、いつも考えている相手は、宿命のライバルだけだった。
 二人の戦況は一進一退、ほとんど引き分けで、甲乙つけがたがった。より速く、より高く、より秀でより優れた成績を上げるために、祥一郎は自由を犠牲にして努力した。それは兄の秀一郎も同じだろう。
 二人は励まし合ったりはしなかった。同じものを受け継ぎながら、黙々と、一つの屋根の下で別々に戦った。手の内をひた隠し、相手の裏をかいて出し抜いて、時に駆け引きして。
 昔は。
 ガキの頃は秀一郎のこと、頼りにしてたのに。他に友達なんていなくても、兄弟は永遠の絆、自分が独りになることなんてないと思ってたから。
 近所の奴らからかったり、授業中に入れ替わったりしても全然バレなくて、二人でよく笑った。楽しかった。それなのにいつの間にか、口もきかなくなって、同じ家にいるのに知らない人間のように、そのくせ表面下で闘志メラメラ燃やして──。
 秀一郎は双児の兄。嫌いではないけれど。
 憎んでる。
 恨んでる。
 死んでくれればいいと思うこともある。
 祥一郎は頭を振った。強く。恐ろしい考えを追い払うように。
 どうかしてる、自分の兄貴にそんなこと思うなんて。いくら疲れていても。生まれた瞬間からの後継者争いに疲れ切っていても、どうかしてる。
 それとも。
 ふと顔を上げて、祥一郎は中空を睨んだ。
 秀一郎、同じ魂。
 だがあいつも俺のことを、憎んでいるのだろうか?


 一行は森の半ばにあった、街道なのか先刻の道よりは広い、だがやはり舗装はされていない道の傍らに腰を落ちつけた。
 動物の群れはそのままドドドと猪突猛進して行ってしまい、見上げた空に怪しい鳥の影はない。森の中にも生き物の気配はなく、四人と犬を残して、他はみんな消えてしまったかのようだ。
 祥一郎は張り出した大木の根に座って、街道の果てを見やった。鬱蒼とした森の中、ここだけぽっかりと明るいが、緩やかにカーブして先は判らない。
「触んじゃねえよっ」
 少し離れたところで、芳真が金髪を振り乱して水都の手を払った。犬は芳真と祥一郎の中間の木の根元、ちょうど体の大きさ分スペースの空いていたところに伏せている。
「恥ずかしがることないでしょ、男のくせに」
 水都の反対側から手を出して、舞が芳真の皮ジャンを引っ張る。
「るせえな、放っとけよ」
 すごむ言い方に舞が怯んだ一瞬に、言われても女とは信じられない水都が乱暴にジャンパーを脱がした。
「っ、大したことねーつってんだろ!」
「それは判ってる」
 水都は芳真を上回るクールな口調で答える。
「これだけゴネられるんだからな。でも鳥にやられたのは確かなんだ、傷の具合ぐらい見せたってバチは当たらないよ」
「そうです、あたしを庇って怪我させちゃったんだもん、せめて傷口ぐらいあたしがきれいにしなくちゃ」
「おまえを庇った訳じゃねえよ」
 むか、と顔に書いて舞は芳真を睨んだ。
「あっそう、じゃああんたはトリとジャレ合うのが趣味なんだ。邪魔して悪かったわね」
「おまえこそそんなに脱がしたいなんて、そんなに俺のハダカ見たいのかよ」
「ばっ、じょおだんじゃないわよ、お金もらったって見ないわよっ」
 若い方から二人が喧々囂々している間に、水都がジャンパーを祥一郎に放ってよこした。そのまま続けて、中に着ていた白いTシャツに手を掛けている。祥一郎は笑った。
「あっ、バカ引っ張んな、伸びるだろお!」
 最後に現れた舞以外の三人も、以前に面識はない。
 ここはどこだ、と祥一郎が呆然としていると金髪の人影があり、声を掛けようとしてふと見ると、前方にやけに美形の男がいるのが判り、互いに歩み寄ったところに、四人目の舞が現れたのだ。
「あっ、やっぱり肩から血が出てる! ちゃんと見せてよお」
 肩より五センチくらい長い、緩い癖のある髪。ところどころが赤茶色なのは染めているのではなく、ドライヤーで焼けたのだろう。
 何の手入れもしていない太い眉、低い鼻、小さな口には口紅一つ塗っていなくて、素朴というか、今時珍しく中学生らしいというか、化粧顔の女子大生に見慣れた祥一郎には、なかなか好ましい顔をしている。
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by new-chao | 2005-04-11 15:54 | 小説-黄金のドア(1)

黄金のドア

 それに、目がいい。奥二重で少し吊り気味で、猫っぽくて無邪気な感じだ。気に入った。ソフト部だとピースされた時は、つられて笑ってしまった。女の子として好き、というよりは妹のように可愛い、という方が近いが。
 犬は後足を横に投げ出した寛いだポーズで、四人を観察している。甘えて擦り寄っては来ないが、手を伸ばしても噛みつくように牙を見せたり、唸ったりはしなかった。でも触らせない。
 値踏みするような、つぶらな瞳。小首を傾げる。
 ジャンパーを脇に置いて、祥一郎がもう少し犬に近づこうとした時、鋭く本気の声で芳真が怒鳴った。
「やめろ!」
 はっと祥一郎が振り向くと、舞と水都が二人がかりで芳真のTシャツをめくり上げたところだった。
 見た。
 くっきりと。
 左胸の上から、右胸の下に向かって引かれた、醜く引きつれた痛々しい斜線。
 火傷の痕、だ。
「見てんじゃねーよ……」
 芳真の低い声に、舞は慌てて手を離した。
「あ、ご、ごめんなさい」
 返事もせずシャツを直し、芳真はズカズカ祥一郎の側へ歩いて来て皮ジャンを拾い、その勢いで三メートルほど向こうまで行くと、下草に胡座をかいた。
 あの強烈な火傷を目前に、少女二人が気がついただろうか。
 だが祥一郎は見た。
 芳真は胸だけでなく、腹にもいくつか古い傷を持っていることを。


 いたたまれない雰囲気。
 舞はもう一度謝ろうと芳真の方を向いたが、彼は金髪で顔を覆って、近くに来んなよ、というビームを全身から発している。
 太陽は空の中央で輝いて、街道を、森を、燦々と照らしているのに、ここだけどよんと暗くなっている。誰も何も言わない。
 野口英世って小さい頃囲炉裏に落ちたかどうかして、手が固まっちゃったのよね。芳真君のあの、火傷は……。
 案の定、舞は火傷以外には気がついていなかった。
 体育の水泳の授業で男子と一緒になってしまうのも恥ずかしいが、初めて会う知らない男の子の半裸はもっと恥ずかしくて、だからそんなにしっかり見てないということもあるが、それよりもっと、あの怪我は強烈に目を引いたのだ。
 やっぱり、まだ、痛かったりするのかな。あんな風に乱暴にしたら。うわあ。
 舞がますます後悔して、でも芳真の側に行こうとしかけた時、不意に犬が立ち上がった。同時に美少年、ではなくて水都が、舞の腕を掴んだ。
「な……」
 何ですか、と言いかけるのを手で制して、水都は木々の間から道の方を窺った。舞も息をひそめる。
「馬だ」
 離れたところで中腰で、祥一郎が舞たちをちらっと見た。
「馬?」
 訊き返す舞に頷いて、口の前に指を立ててみせる。風が木の葉を揺らす音に混じって、舞の耳にも蹄の音らしいものが聞こえてきた。一頭じゃない。
 時々、カチャカチャ、金属的な音がするのは何だろう。もしかして、あの音は……。 ……鎧?
 自分の思いつきにドキィッとして、舞は水都の手を掴み返してしまった。鞍とか、何か道具の音かもしれないではないか。なのにどうして、そんな物騒なものを。
「……がすのだ!!」
 男の声だ。遠くてよく聞き取れない。
「草の根分けても……の……を……」
 ざわざわざわ。男が何か言い合う声。足音。
 何か探しているらしい。
「……閣下のお命を狙った男……」
 閣下? 天皇のことなら、普通、陛下よね。それに、お命を狙った男?
 舞が祥一郎を見ると、彼は手をひらひらさせて、静かに下がれと合図した。どうもおかしい。この近くに、殺人犯がいるとでも言うのだろうか。
 ただでさえ訳が判らないのに、ここでまた訳の判らないことに巻き込まれたら、もっと訳が判らなくなる。
 それに馬と、馬に乗っているのだろう男の気配が近づいてくるに従って、異様な空気が迫ってくる感じがするのだ。勇ましく立ち上がったかに見えた犬も、尻尾を後ろ足の間に挟んで、今にも逃げだしそう。
 水都が舞の腕を掴んだまま、そろそろと奥へと歩きだし、つられて舞も下がりだしたが、犬は動かない。動かないのかと思いきや、──怖くて動けない、らしい。
 この犬も一体何なんだ。
 そう思いつつ、舞が犬を抱っこしてやろうと水都から手を離した時、一際はっきりと男の声が聞こえた。四人は動きを止めてしまった。
「不届きな罪人、胸に火傷のある男を探せ! 必ず捕らえろ!!」
 胸に火傷。
 芳真以外の三人は顔を見合わせ、一斉に芳真を見た。芳真も目を見開いて凍りついた。舞が声を出すより一秒早く、森の奥へと逃げ込もうとして──できなかった。
「動くな」
 ブスッ、と芳真の鼻先をかすめて、木の幹に矢が突き刺さった。
 男の声が聞こえてから五秒とたっていないのに、いつの間にこんなに近くに来たのか。
 手に手に弓や剣を持った鎧姿の男たちが六・七人、舞たちが行こうとしていた森の中から現れ、四人を囲んでいる。全員、色合いはいろいろだが金髪碧眼、日本人ではない。
「何者だ。黒髪に黒い目とは珍しいな、土地の人間ではないだろう」
 そして街道に一人だけ、白い馬に乗ったままの男が現れた。『必ず捕らえろ』と命令していたのと同じ声、この男がリーダーらしい。
 恐る恐るリーダーを振り返って、舞はまたしても絶句してしまった。理由は水都を最初に見た時と同じだ。
 かっ、かっこいい人……!
 浅黒い肌は精悍で、秀でた額、男らしくキリッとした眉、焦げ茶色の二重の瞳は甘いのに凛々しくて、カールした睫毛は鉛筆でも乗せられそうなくらい長い。通った鼻筋も清潔そうな口許も、神様の定規で計ったのかと訊きたくなる絶妙のバランスだ。
 目と同じ、焦げ茶の髪はウェーヴしながら腰まで届き、肩からはおった深緑のマントとこっちもバランスは絶妙だ。外人モデル並に小さな彫りの深い顔、とどめに年は二十代前半。
 これは夢よ。絶っ対っに夢よ。完璧すぎるもん。
 夢にしては、擦りむいた膝が痛いのだが、これだけ総天然色カラーでステレオ音声の夢なのだ、痛みだの匂いだのが付いていてもおかしくはないだろう。ということにする。
『端整』っていうのはこの人のためにある言葉だわ。これでこの人も、実は女だなんて言いだしたら、あたし祥一郎さんのことも女じゃないかって疑うからね。
「おまえ、服を脱げ」
 銀の鎧を着た白馬の王子、リーダーはじろじろ見られるのには慣れているのか、気がついていないのか、舞の視線をまるで無視して、馬上からまっすぐ芳真を見下ろした。
「ちがっ、こいつは……」
 言いかける祥一郎に、リーダーは彼を見もせずに鞍に着けてあった細い剣を抜いて突きつけ、こんな時にナンだが、腰が抜けそうに恰好いい低い声でさらに言った。
「服を脱いで、潔白を証明して見せろ」
「……何なんだ、あんたら」
 芳真の問いに、剣を持った別の男、どこかリチャード・ギア風の中年が近づいて答えた。
「先日、我がヴァンス総統閣下の御寝所に押し入った賊のこと、知らぬとは言わせんぞ」
「言わせんぞったって」
 芳真は前髪を掻き上げ、じりじりと自分たちに近寄ってくる男たちを見回した。
「知らねーよ、そんなの」
 変ね。
 舞も兵隊のような男たちを見て、ふと首を傾げる。
 この人たち、少なくとも見た目は日本人じゃないのに、どうして日本語喋ってんだろう。
「その時勇敢な閣下はお部屋の松明で応戦され、賊は胸に傷を負って逃走。我々は胸に火傷のある男を探している」
 あたしたちの中で一人だけ髪が金だから、芳真君に一番に目を付けたのは判るけど。
「見せろ。ご婦人方の前では恥ずかしいのか? それとも」
 リーダーが唇の端を吊り上げて、残酷そうに笑った。
「他に見せられない理由が?」
「っ!」
 瞬き一つ、リチャード・ギアが剣で芳真のTシャツを、体には毛ほどの傷も付けずに縦に切り裂いた。
「傷……!!」
「っ、なっ、触るなあ!!」
「貴様!!」
 見る見るうちに芳真は五人によって縛り上げられ、止めに入ろうとした祥一郎はリーダーの剣に阻まれた。
「やっ、何すんのっ!」
 舞と水都の前にもギラリと光る剣を突きつけられて、動けない。
「その傷を持ちながら犯人ではないと言うなら、いつどこでどのように作った傷か言ってみろ。聞いてやる」
 芳真は長い前髪の下から、視線でリーダーを殺そうとするように目をギラギラさせて、──だが何も言わなかった。
「よ、芳真!?」
「芳真君!」
 舞は悲鳴染みた声で呼んだが、芳真は唇を噛んだだけだ。
「連れていけ」
「そいつは違う!!」
 祥一郎が怒鳴ったが、男たちは一顧だにせず、暴れる少年を難なく縛り上げて引っ立てて行く。剣を無視して出ようとする祥一郎を制するため、リーダーは剣の先端を彼の眉間に当てて、残った三人を順番に見た。
 舞は自分も、一センチでも動いたら祥一郎が切られてしまう気がして、息を詰めてリーダーを見返す。リーダーは微かに笑い、水都に目をやり、今度ははっきりと笑った。「おまえ」
 水都は臆することなく、キッと顔を上げる。
「俺と来い。おまえ、処女だろう」
「……あんた誰だ」
 向こうで男が呼んでいる声がする。すぐに、とリーダーは返事をし、祥一郎から剣を離した。
「俺の名はアクセル・ヴァンス。今代ヴァンス総統エレインの息子だ。……おまえは俺と同じ匂いがする」
 水都は舞の腕から手を離すと、目の前の剣も気にせず、一歩前へ出た。
「み、水都さん」
 思わずはっしとコートを掴んだ舞に、水都はその手を軽く叩いて微笑した。
「大丈夫。──行こう」
 リーダーが剣を戻した手を差し出し、水都はその手を取った。リーダーが馬上に、自分の前に彼女を座らせる。
 何を言うこともできずにいる舞の前で、絵に描いたように美しい、しかし男同士にしか見えないところがミソの、二人を乗せた馬は駆け去った。その後を六人の兵士と、縛られた芳真を乗せた馬が六頭、走っていく。気づけば舞を剣で制していた男もいない。
 森の中、祥一郎と舞、ぽつんと取り残されてしまったのだった。
                                            (2)へ続く
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by new-chao | 2005-04-11 15:53 | 小説-黄金のドア(1)